まさてる「よし子ちゃん。このバラの花束を受け取ってくれ…。バラの花言葉は『永遠の愛』。君へ永遠の愛を誓うよ。結婚してくれ。」
よし子「まさてるさんっ…(泣)」
うるせー!
花言葉ってそもそも人間が勝手に考えて花に押し付けたもんだろ!何が「永遠の愛」だ。バラ発信でそんなこと言われた覚えはないぞ。
第一、バラだって生き物だ。永遠なんて、そんな大げさなこと軽々しく口にするんじゃない。あいつだって明日には枯れてるかもしれないのに。
一体何が「永遠の愛」だ。バラはただ、鮮やかな赤い色と甘い香りで、虫を誘き寄せ、子孫を残そうとしているだけだろうに。そこに人間の勝手な願望や幻想を重ね合わせ、「愛」だの「永遠」だの騒ぎ立てるなんて、滑稽以外の何物でもない。
もし花に言葉が話せるなら「あのさ、別に君のこと好きとかじゃないんだよね。ただ、この色がモテるって聞いたから、この色になっただけで…」「永遠?いやいや、せいぜい数週間で枯れるから。勘弁してよ」とか言ってるかもしれない。
バラはまさてるとよし子の人生を背負い切れないよ。
それでも、僕たちは花束を贈り、花言葉を語り、ロマンチックな雰囲気に酔いしれる。それは、人間という生き物が、本質的にロマンチストであり、同時に、とてつもなくおめでたい生き物である証拠なのかもしれない。
例えば、カスミソウ。「清らかな心」という花言葉がついているらしい。あの小さな白い花が、群がって咲いている様子を見て、一体誰が「清らかな心」を連想したのだろうか?むしろ、群れることで自己主張を薄め、目立たないようにしている、陰湿な戦略に見えなくもない。非ロマンチストの僕がカスミソウの花言葉を付けるなら「目立たないのが一番。争いは避けたいの」あたりが妥当だろう。
で、そうかと思えば、「マツムシソウ」。
マツムシソウの花言葉は「私はすべてを失った」「未亡人」「私は不幸」「不遇の恋」。
花言葉命名委員会はマツムシソウに親殺されたんか??
ネガティブな花言葉のオンパレード。マツムシソウにしてみれば、「別に不幸じゃないし!むしろ一生懸命咲いてるし!」と反論したくなるだろう。
しかもこの花言葉のタチが悪いのが、1つの花でも色々な意味があり、全然違う意味も付けられているケースがあるということだ。
例えばチューリップなんかは「博愛」「思いやり」という花言葉があるらしいのですが、ここから更に色別の花言葉が設けられているんです。赤色のチューリップは「真実の愛」「愛の告白」、ピンク色のチューリップは「愛の芽生え」「誠実な愛」、白色のチューリップは「純粋な愛」「清潔」…。多すぎやろ。どんどん進化の種類が増えるイーブイかよ。
若かりし頃友人Aが、半年前に彼女と別れた(ものの吹っ切れている)友人Bの誕生日に、失恋イジりで黄色いチューリップを贈ったことがある。黄色いチューリップの花言葉は「報われぬ恋」。
とはいえ粗暴且つ教養の僕らグループなので、友人Bはきょとんとしていた。そんなわけでその場でスマホで花言葉を調べるように促したところ、Bは「ぐっとした」表情でこう言った。
「…なんか、照れくさいけど、ありがとうな…!」
どうやらBが見たサイトには花言葉として「愛の芽生え」が紹介され、新しい恋へのエールと感じたようだった。
そんな様子にAも真意は言い出せず、気まずい時間を過ごしたことが印象に残っている。
結局のところ、花言葉なんて、後付けの、気休めに過ぎないのだ。それでも、僕たちは花を愛で、その名前に意味を見出そうとする。
それは、無意味な日常に、ほんの少しの彩りと物語を添えたいという、人間の切実な願いなのかもしれない。
あぁ、ちなみにBは今は結婚して子供もいて、報われた愛となっていますのでご安心ください。
おわり。