みんな集まれ半蔵門

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母の日プレゼント会議2025

 

「お菓子は嫌!ちゃんと残るものが良い!」

 

長女が鼻息荒く言い放つ。

 

妻がお風呂に入っている間に今年の母の日のプレゼントは何にするか、を長女・次女・僕の3人で会議中だ。

 

昨年を振り返ってみる。小学校三年生だった長女は、神戸の雑貨屋で真剣な眼差しでネックレスを選んだ。ガラスケースの中のキラキラした輝きは、彼女の小さな瞳に宇宙を映し出しているかのようだった。一方、幼稚園年長だった次女は、原色がきらめくマニキュアを迷わず手に取った。彼女にとって、あの小さな瓶の中に閉じ込められた色は、まるで魔法の薬か何かのように見えたのだろう。妻はどちらのプレゼントにも心から喜び、大切にしていた。それは紛れもない事実だ。

しかし、今年の娘たちの主張は、「消えものは嫌!」なのである。

 

彼女たちの言い分もよく分かる。せっかく一生懸命選んだプレゼントだから、形として長く残ってほしい。妻の目に触れるたびに、自分たちの存在を思い出してほしい。そんな純粋な願いが、あの力強い「残るものが良い!」という言葉に凝縮されているのだ。それはまるで、夏の終わりに必死に鳴く蝉が僕たちはここにいたんだ!と主張しているかのようだった。

 

とはいえ彼女達は具体的なプレゼントが思いつかず、プレゼントのヒントとして僕はスマホを手に取り、「母の日 プレゼント」と検索窓に文字を打ち込んだ。出てくるのは、カーネーション、エプロン、マグカップ、そして――きらびやかなスイーツの画像。色彩豊かなタルト、艶やかなチョコレートケーキ、宝石のように並んだマカロン。画面いっぱいに広がる「消えもの」たちの魅惑的な世界。

 

その瞬間、長女と次女の目が明らかに輝きを増した。さっきまで「消えものは嫌!」と断固としていたはずの彼女たちが、画面に釘付けになっている。

 

「うわぁ…これ、おいしそう…」

 

次女が、画面の中のイチゴがゴロゴロ乗ったタルトを指差しながら、夢見るような声を出した。
長女も、「あ、このチョコもきれいだねぇ…」と、さっきまでの勢いはどこへやら、完全にスイーツの魔力に引き込まれている。

彼女たちの心の揺れ動きは、まるで春先の気まぐれな天気を見ているかのようだった。さっきまで北風が吹いていたかと思えば、次の瞬間には太陽が顔を出す。人間の心とは、特に子供の心とは、かくも移ろいやすいものなのか。いや、もしかしたら、彼女たちの中には最初から「おいしいもの」という選択肢も心の片隅にあったのかもしれない。ただ、それを「消えもの」というカテゴリーに入れて、一旦は却下しただけなのか。

「結局、お菓子もええんやん」僕は思わず心の中で突っ込んだ。声に出すと、彼女たちのプライドを傷つけるかもしれないと思って、ギリギリのところで飲み込んだが。

 

しばらくの間、彼女たちは画面上のスイーツたちと真剣に向き合っていた。まるで、人生の岐路に立たされたかのような表情である。いや、もしかしたら、彼女たちにとって、母の日のプレゼント選びは人生における重要な「選択」の訓練なのかもしれない。そう考えると、僕の役割は単なる案内人ではなく、彼女たちの成長を見守るメンターに近いのかもしれないな、などと柄にもないことを考えてみたが、目の前で繰り広げられているのは、ただただ「おいしそう」という原始的な欲求と「ちゃんと残るもの」という建前(?)との間で揺れ動く、二人の小さな人間ドラマだった。

もっと言うとお互いが「こいつより素敵なものをお母さんに渡す」という姉妹のプライドがどつき合っていました。姉妹ってマジでこの連続です。

 

結局、その夜の会議では結論は出なかった。結論は持ち越しとなり、最終決定は母の日の前日、つまり今度の土曜日に行われることになった。三人の秘密の買い物ツアーである。

その計画はこうだ。

土曜日の朝、僕が子供たちに「今日はパパとおっきな公園に遊びに行こう」と持ちかける。子供たちは公園に行けると思って喜び、三人で家を出る。そのまま、事前に目星をつけておいたお店に立ち寄り、プレゼントを選ぶという手筈だ。

定期的にお母さんお休みデーとして僕が子供たちを連れまわす日を設けているので自然な流れだとは思う…が妻もまぁ、大人なので気づいても気づかぬフリをしてくれるでしょう…。

 

しかし、この完璧に見えた計画に、我が軍の参謀が異を唱えた。

 

長女「三人で『公園に行こう』って、すんなり私達がついて行くの、変じゃない?」

 

君、ひどいこと言うね。

 

長女「だってさぁ、いつもパパが『三人で行こう』って言うと、『お母さんは?』とか、『四人で行きたい!』って言うじゃん。急に三人で『やったー!行くー!』ってなったら、お母さん、絶対『あれ?』って思うよ。」

 

彼女の言葉は、まるで研ぎ澄まされた菊一文字のように、僕の浅はかな計画の急所を見事に一刀両断した。しかしこれこそ真実である。

前述の「お母さんお休みデー」の際に、僕が「三人で行こう」と誘っても、彼女たちは必ず妻の同行を求める。それは、妻への愛情表現でもあるし、四人揃って行動することへの安心感でもあるのだろう。

そんな彼女たちが、土曜日の朝に限って「うん!行く行く!」と二つ返事で承諾したら、それはあまりにも不自然だ。妻はきっと、何かを察するに違いない。コナン君であれば「あれれ~?おっかしな~?」と呟いて痛いところを詮索していくる事案だ。うるせぇぶりっこ蝶ネクタイ。

 

「…た、確かに…」僕は冷や汗をかきながら呟いた。長女の指摘は、あまりにも的確だった。小学校四年生の成長をこんな形で感じるとは。

というわけで、急遽、作戦の修正を余儀なくされた。土曜日の朝、妻に不審がられないための「台本」を練ることとなった。

 

僕「土曜日の朝、パパが『公園に行こう』って言ったら、二人はまず『お母さんも行こうよ~!』って言うんだ。で、お母さんが『今日はいいわ』とか、『お留守番してるね』とか言ったら、『え~!つまんなーい!』ってがっかりしたフリをする。」

次女はフンフンと頷きながら、とても楽しそうだ。3人での秘密の会議というシチュエーションが楽しくなってきたようだ。

 

僕「それを2回繰り返そう。君たちはしつこくお母さんを誘う。これでリアリティがグッと増すはずだ。でも、最終的には『ま、いいか!三人で行こっか!』って元気良く言うんだ。どう?できる?」

 

長女は腕を組みながら真剣な表情で考え込んでいる。まるで、難しい数学の問題を解いているかのようだ。

「パパ、OKだ」長女が力強く頷いた。
「やってみよう」次女も、(本当に覚えたか怪しいが)頼もしい返事をくれた。

 

こうして、土曜日の朝には、壮大な芝居が繰り広げられることになった。

主役は、純粋無垢な二人の娘たち。果たして、彼女たちはこの難易度の高い演技を成功させ、全米…もとい、妻から感動の涙を引き出せるだろうか。

土曜日の朝が来るのが、今から楽しみで仕方ない。

そして、肝心のプレゼントが「消えもの」になるのか「身に着けるもの」や「飾れるもの」になるのか…。乞うご期待。

 

心に響く、感動のロードムービー。

カミングスーン。